ロバート・フリップ+アンディ・サマーズ、1984年のインタビュー (まとめ)

02 May 2015  |  Tags: Robert Fripp, Andy Summers

2013/11/22から紹介した 「ロバート・フリップ、アンディ・サマーズと語る」 の全体を一つにまとめた。1984年、フリップとサマーズがアルバム「Bewitched」をリリースした時のラジオ番組を、ファンが録音してて、後から口述筆記 (テープ起こし) したものだそうだ。キング・クリムゾンの情報サイトElephant Talkにある記事。

→ Elephant Talk | Interview with Robert Fripp and Andy Summers on WHFS 99.1 in Annapolis/Baltimore


(バックはアルバム「Bewitched」から「Begin the Day」)

  • フリップ:じゃ、どういう集まりなんだか、説明してくれるかな。

そうですね。私はヴィック・ガーバリニ、「Musician」誌の編集長です。テーブルの向こう側で、新しいアルバムのジャケットになる版画にサインしてる最中なのが、ロバート・フリップさんです。

  • フリップ:やあ、みんな。

ペンのカリカリいう音が皆さんにも聞こえるでしょう。

  • フリップ:これがアートってものだ (笑)。

ラジオ越しじゃ判らないでしょうが、抽象画です。アートには違いないですね。

  • フリップ:生活のためにやってるんじゃない。アートのためにやってるんだ (笑) (art for art's sake (芸術至上主義) のもじり)。

アートさんの代わりに来て下さってるのが、若いアンディ・サマーズさんです (人名のアートにかけてる。実際には、サマーズはフリップより4つ年上で、幼なじみ)。

  • サマーズ:ありがとう。

  • フリップ:何かの雑誌の「セックスとロックンローラー」って記事に、大々的に取り上げられてるの、知ってたかな。もう言ったっけ。

  • サマーズ:こういうアートなインタビューのしょっぱなに、そういう低レベルなネタを切り出してくれるのは、嬉しいね。知ってるよ。

  • フリップ:感想は?

  • サマーズ:光栄だ。

わかります。あなたがたは一緒に2枚めのアルバムを作ったところですね。サマーズ&フリップというかフリップ&サマーズというか。

  • サマーズ:フラマーズ&シップとかシップ&フラマーズでもいいよ (二人の苗字を部分的に入れ替えた造語)。

そんな問題 (某誌の記事のこと) を抱えた二人が、どうして一緒に、こんなクリエイティブな仕事をするようになったんですか。

  • フリップ:(奇妙な発音で笑いながら) だって、誰も僕の相手をしてくれないんだもん。それで、友達のアンディに「一緒にアーニーのところに行って、レコードを作らせてもらおうよー」って言ったんだ。

二人ともイギリスのドーセット地方の出身だそうですが、それがドーセット訛りなんですか。

  • サマーズ:それは蛇足 (gilding the lily) ってやつだな。

  • フリップ:(奇妙な発音で) 違う、違う、違う。(普通の発音で) これがドーセット訛りだ。ジョン・ウェットンが、今はエイジアのメンバーだけど、15か16歳の頃、やっぱりボーンマス (ドーセット地方で最大の都市) に住んでて、リチャード・パーマー・ジェイムス (Red期のクリムゾンの作詞担当) と、パーマー・ジェイムスってバンドを作ってた。そして、田舎道のあっち側とこっち側で、(奇妙な発音で)「いいね、いいね、いい感じ」、なんて喋ってたんだ。

  • サマーズ:素晴らしい音楽的バックグラウンドだよな。

当時はMTVなんかありませんでしたからね (たぶんローカルな関係が大切だったって意味)。じゃ、二人ともだいたい同じボーンマスのあたりの出身ってことでいいですか。

  • サマーズ:その通り。

初めて会った時、ミュージシャンとして一緒に組んだんですか。

  • フリップ:そうじゃない。ボーンマスにミンズって楽器屋があって、私の知り合いが経営してたんだけど、アンディはそこで働いてたんだよ。安物で役立たずのどうしようもないオルガンが山積みになってたな。

  • サマーズ:今でもそれに呪われてるってわけだ (笑) (organ には楽器の意味と器官って意味があって、セックス器官であるペ◯スをかけてる)。

その雑誌記事を確認してみます。

  • フリップ:あの店は、ボーンマスの中産階級を相手に、良い商売をしてたと思う。そうやって中産階級の人たちは、金を使い尽くすか、良い趣味を持つか、新しいテクノロジーにハマるか、してたんだ。話を戻すと、アンディはそこで働いてた。そして、私が店に入ってってちょっと質問したら、やけに偉そうで無愛想だったんだ。

  • サマーズ:その話がその後ずっと何年も尾を引いてたんだよな。

  • フリップ:あんな無愛想じゃだめだよ。

  • サマーズ:判ってる。話を続けると、当時、私はマジェスティック・ホテルでギターを弾いてた (ディナーショーやダンスなどの伴奏のこと)。ボーンマスのユダヤ人協会なんかのためにね。そして、ロンドンに移ることにした時に、後任は誰がいいか、若いミスター・フリップの他に誰がいる、ってなったんだ。もちろん、彼もまたロンドンに出て、最初の頃の私なんかよりずっと大きな名声と富を得ようとしてたわけだけど。

そして、後釜の重責を担ったわけですね。

  • サマーズ:そう、後釜だ。

今は歴史の中でおぼろげになってしまってますけど、当時、あの大いなる変革の頃...

  • サマーズ:去年のことか (笑)。

...ホテルでどんな曲を演奏してたんですか。

  • フリップ:君から言ってくれよ。そしたら、私も言う。

  • サマーズ:Profidea (全く判らない。何だろう)、イスラエル国歌、「Happy Birthday Sweet Sixteen」、コードを知ってたのは、この3曲くらいかな。あとは赤面ものだ。

  • フリップ:Jolsons (これもよく判らない) を何でも。ユダヤ教の結婚式や成人式の曲。成人式じゃ、ツイストとか、ちょっと違う音楽もやった。バンドの面々が私に、「ツイストはやれるか」って言うんだ。それで、時々ツイストの新曲の楽譜を買ってきては、書き写してバンドに渡してた。

  • サマーズ:衝撃だな。

  • フリップ:今でも時々その悪夢にうなされるよ。

アンディに聞きますが、なぜロバートと組もうと思ったんですか。

  • サマーズ:なぜロバートか。そうだな。真面目に答えると、ずっと生きてきて、何となく知ってるつもりになってたことが、突然、意識に飛び込んできて、目の前がぱっと開ける、そんな感じだったんだ。ザ・ローチェス (The Roches) のアルバムで彼のソロを聞いて、この音は何だ、なんて素晴らしい音なんだ、そう思ったんだよ。

  • フリップ:「Hammond Song」のことかな。

  • サマーズ:あれは驚くべきソロで、心が張り裂けそうだった。それで突然、彼と彼の仕事が気になり始めたんだ。ディヴィッド・ボウイとの仕事なんか、本当に面白かった。その頃、私は、ザ・ポリスとは違うところで何かやりたい、そう思ってた。できれば、ザ・ポリスの活動を邪魔しない、けど音楽的に有意義なことがね。売れるかどうかとは全く違うプレッシャーだ。1980年代のギター・デュオって感じでやってみるのなんかいいかも、とか思ってた。なので、ミュンヘンに泊まってた時にロバートに手紙を書いた。帰国したら、ロバートから熱い返事が返ってきてた。それで、会って話を詰めたんだ。たしか、1980年のクリスマスに私の実家でだったと思う。1981年の9月に、ようやく一緒にアルバムを作った。それが、この「どたばたコンビ」の始まりだ。

1枚め (「I Advance Masked」) とこの2枚めは違いますよね。1枚めは、2本のギターが絡み合って、確かにデュオって感じですけど、2枚めは、前半はミニマルなダンス系、後半は融通無碍で、誰が何をやってるのか、よく判らなかったりします。どんなふうに役割分担したんでしょうか。

  • サマーズ:ふむ。ある程度までは説明できるけど、全部は無理だな。

  • フリップ:二人が対等だったって言ったら、嘘になる。私は、クリムゾンのツアーが控えてて、2週間半しかいられなかった。後はアンディに任せたんだ。だから、アンディの比重のほうがずっと大きい。

でも、半分のフリップでも無いよりはマシ (Half of Fripp is better than none) でしょう。

  • フリップ:そうだな。比重が半々だって言ったら、それは正しくない。

それぞれの曲で一緒に弾いてる時に、何か本能的な方向付けとか、あったりしましたか。

  • サマーズ:それがまさに私たちのやりかただ。例えば、ロバートが骨格を作ったら、私が肉付けするとか。どの曲もそうだってわけじゃないけど、まぁ、無難な言いかただと思う。ロバートは単音のメロディやポリリズムのリフを山ほど持ってくる。それに私がハーモニーを付けていくんだ。

以前に頂いた原曲のカセットには入ってないんで判らないんですが、後半の曲はスペイン風というかムーア風 (北アフリカのイスラム教徒) に聞こえるんですよ。

  • フリップ:ハミングで来たか (たぶんインタビュアーが曲をハミングした)。

すごく印象的で、1本のギターがゆっくりアルペジオしてるところに、流れるようなギターが入ってきます。

  • フリップ:私の最新のギター・チューニングだ。

曲の話に戻ると、なんて曲ですか。

  • サマーズ:「Maquillage (マキアージュ)」。

  • フリップ:え?

  • サマーズ:そうなんだよ。

  • フリップ:曲のタイトルはアンディが決める。私はちっとも知らないんだ。

  • サマーズ:間違えやすいよな。アルバムを製作してる最中は、どうでもいい仮のタイトルを付けて、誰もがずっとそのタイトルで呼んでる。それが、アルバムを完成させる時には、正式なタイトルを付けることになる。混乱の元だ。

どういう意味ですか。

  • サマーズ:フランス語だと思う。メーキャップの意味だよ。

  • フリップ:へぇ?

この曲 (Maquillage) は、まずロバートのパートがあって、その簡単なアウトラインをアンディに持ってったってことでしょうか。

  • フリップ、サマーズ:その通り。

  • サマーズ:実際には、ほとんどスタジオで作り上げた。リハーサルを何ヶ月も前にちょっとやってて、アルバムでこの曲だけ、それが役に立った。ロバートの元々の演奏に私がメロディを付けようとしたんだが、彼は結局、音を取り除いて7/4拍子に仕立て上げて、すごく面白くなった。とっても素敵だよ。私はその上で即興を弾いただけだ。

このアルバムの後半ではギター・シンセサイザーを多用してるようですが、アンディ、最初に使ったのは、ザ・ポリスの「Doo Doo Doo」ですか。それとも、「Don't Stand」でしたっけ。

  • サマーズ:「Don't Stand So Close to Me」だ。

アルバム「Synchronicity」でも、「Tea in the Sahara」で素晴らしいギター・シンセサイザーを聞かせてくれてると思ってたんですが、あれは実はギター・シンセサイザーではないんですか。

  • サマーズ:あれは全てストラトキャスターとEchoplexでやったんだよ。

どうやって作ったんですか。

  • サマーズ:あの曲の録音は、メンバー3人、別々の部屋でやった。なので、ものすごくデカい音が出せたんだ。フィードバックぎりぎりまで持っていくと、音が揺らぐ。アンプのほうを向くか、違うほうを向くか、それだけで音が変わる。部屋の中で的確な場所に立ってないといけない。そして、音をデカくして、ボリュームペダルを使う。フィードバックがまさに始まるってところで、コード・ポジションをずらすんだ。あの曲の録音だけで、10歳は年取ったよ。

3人とも別々の部屋だったってのは、衛生上の問題ですか。

  • サマーズ:そうだな。身体的にも精神的にもね。いやいや、正直に言うと、カリブのモントセラトのスタジオだったんだけど、ドラムスの音が一番よく響くのは食堂だった。巨大な木造の部屋で、そこを全て片付けて、スチュワートがドラムスをセットした。スタジオよりずっと良い音だった。スティングはコンソールに直接つないで演奏した。私は壁に沿って6台のアンプを並べて、その時の気分で組み合わせを変えたりしてた。

二人のコラボレーションからお互いが影響を受けて、ロバートは流動的な曲が、アンディは変拍子の曲が増えてきたように思います。例えば、ザ・ポリスの「Mother」とか、ロバートとのコラボレーションから出てきたって言っていいですか。

  • サマーズ:そうだね。あれは内輪ネタなんだけど、ロバートが気を悪くしないといいな。

  • フリップ:全然。

  • サマーズ:よかった。あのリフは7/4拍子で、フリッピッシュっていうか、フリッペスクっていうか。

  • フリップ:フリッピアン。

  • サマーズ:それだ。特にソロの部分は、7/4拍子で、コードがどんどん変わってくんで、ものすごく難しかったんだよ。頑張ったんだけど、結局は、ロバートの、えっと、何だったかな、あのソロの真似になっちゃったんだ。

  • フリップ:「Another Green World」かな。

  • サマーズ:「Another Green World」だ。「On Fire Island」だっけ (正しい曲名は「Over Fire Island」だが、このソロが入っているのは「Golden Hours」)。

  • フリップ:イーノの付けるタイトルって、いつもまごつかされるんだよ。

  • サマーズ:ロバートが何年か前にブライアン・イーノと録音した曲なんだ。あのソロは大好きだ。

  • フリップ:アイランドのNo.2スタジオで、真夜中を過ぎてた。レット・デイヴィスがエンジニアだったな。もうシャーボーン (ドーセット地方の町) に行かなきゃって時だった。その時に出来たんだ。

  • サマーズ:それが気に入って、私のソロでも拝借したんだ。判ってる人が我々の2枚を聴けば、ちょっとばかりジョークが混じってるのが判るだろうね。

「Every Breath You Take」が大ヒットしましたが、あのギターはバルトーク、それとフリップ&サマーズを変形させたものだって言ってませんでしたっけ。

  • サマーズ:ロバートとアルバムを作り終えて、ザ・ポリスの次のアルバムに取りかかるまでの間に、ロバートともう一枚やろうかとか思ってたんだよ。それで、キッチンで一人セッションを色々やって録音してたんだけど、その時に最初のアルバムの「Painting and Dance」、バルトークっぽい曲だ、のちょっとしたリフもやってみたんだ。

ビデオクリップを2つ作りましたよね。1つは最初のアルバム、もう1つは2枚めのアルバムのために。

  • サマーズ:きみの素晴らしい写真も撮ってあるよ。

  • フリップ:え? 本当? 何それ? セッションの写真?

  • サマーズ:先週、ロンドンでビデオを収録してる最中に撮った。何枚か素晴らしいのがある。きみがワシントンに行く前に渡せるかも知れない。

  • フリップ:すごいな。今はどこにある?

  • サマーズ:こっからちょっと行ったところだ。

今から行きましょうか。

  • フリップ:インタビューの後で行って、一緒に感動してこよう。

いいですね。

  • フリップ:ビデオのことが知りたいかな。

ええ。

  • フリップ:爆笑もんだったよ。ものすごくキツかったけど。一日ずうっと撮影して、夜8時くらいに終わるかと思ってたら、そのまま翌朝の7時までだ。だけど、むちゃくちゃ可笑しかった。アンディがお茶を入れてくれるシーンがあってね。もっと聞きたい?

ビデオクリップの内容を教えてもらえますか。

  • フリップ:撮影は、ホロウェイ療養所ってところだ。1877年に中産階級の治癒可能な精神病患者のために建てられた。今じゃ、25エーカーが6百万ポンドで売りに出てる。建物の一つが、この煉瓦造りの巨大な教会だ。入り口を入っていくと、たしか1900年だったと思うが、ロンドン芸術学校が描いたって壁画が目に飛び込んでくる。彼らは、自分たちか何をしてるか、判ってなかったと思うんだが、壁全体が悪魔の様々な絵で覆い尽くされてるんだよ。

  • サマーズ:信じがたい代物だったな。

  • フリップ:実におぞましい代物で、心が激しくかき乱される。たとえ精神に障害を持ってなくても、少しでも感受性を持ってる人なら、誰もが心の底から怖気づくよ。だけど、そこからホールに入ると、田園風景の絵になって、長いテーブルが置いてある。

  • 私の役どころは一家の主人で、執事のアンドリュー (愛称がアンディ) が私を怒らせようとするんだが、無表情で感情がなく、微動だにしない。で、アンドリューがお茶を入れてくれるシーンがあって、サルがロバに乗ってるし、ジーン・オクトーバー (パンクロッカー) 扮するジャンキーが大きな椅子に崩れ落ちてるし、その上には剥製のクマがのしかかってるし、椅子にはヒツジが繋がれてるし、テーブルにはヤギがいてタイムズ紙、次にガーディアン紙を食べてるし。カメラは小さなレールみたいなドリーに乗ってて、アンドリューの動きに合わせて移動する。動物たちにはそれぞれ調教師が付いてて、カメラが近づくと動物を放して、視野から出て行くようにする。

  • 私の前にはタランチュラのクラッカーが出てきて、それを食べるんだ。幸い、タランチュラは作り物だけど、やたらリアルで、クリームチーズを塗ったクラッカーに載ってる。タランチュラの足の毛が落ちてクリームチーズに混ざってたかも知れないが、よく判らない (笑)。

ある意味、音楽ビジネスの縮図ですかね (たぶん、音楽ビジネスの支離滅裂さや醜怪さを表現したんじゃないですか、って意味)。

  • サマーズ:我々は声明を発表したんだと思うな。

動物たちもギャラを受け取ったんですか (statement には声明と決算書って2つの意味がある。インタビュアーもダジャレの応酬で負けてない (笑))。

  • サマーズ:ウンチは残してってくれたよ (residual には出演者への放送権料と排泄物って2つの意味がある)。

  • フリップ:キツネは夜中には寝てたしね。

  • サマーズ:そうそう、コブタがいて、ちょっと出演する予定で、夜中じゅうずっと待ってたんだけど、死にそうになっちゃったんだよ。

  • フリップ:朝の4時だったよね。

  • サマーズ:そう。だけど、幸い、生き抜いてくれた。生後6ヶ月だったからな。よく頑張ってくれたよ。

  • フリップ:いや、生後ほんの5週間だよ。まだ乳離れもしてなかった。

最初のビデオクリップのほうは、どうだったんですか。

  • フリップ:ウィンボーン (フリップの生れ故郷) のフリップ世界本部 (Fripp World Headquarters) にいた時のことだ。キング・クリムゾンのツアーの合間に、アンディに電話したんだよ。アンディが言うには、「ビデオを作んなくちゃな。何かアイデアある?」。それで、「東洋女性のダンサーを何人か集めるのはどう?」って言った。全くの冗談だ。そしたら、「すごいアイデアじゃないか」。そのままツアーに出て、戻ってきて、アンディに電話でどうなったか聞いたら、開口一番、「ダンサーを集めたよ」。それでロンドンに出向いてって、あれが出来上がったわけだ。締めくくりは琴だ。

  • サマーズ:そのビデオは、さっき言ったビデオ (「Parade」) にも出てくるよ。収録の時にずっと流してた。すでに収録してあった1本なんでね。

  • フリップ:自分のビデオは、この2本の他は、ちっとも面白くない。たいていは、まごついたり、恥ずかしかったりするんだ。

  • サマーズ:え? 他にもあるの? クリムゾンで?

  • フリップ:そうなんだ。

キング・クリムゾンのビデオは勿体つけたり馬鹿っぽかったりする、って意味じゃないですよね。嬉しくなかったってことですか。

  • フリップ:「I Advance Masked」のビデオは大好きだよ。とんでもなく馬鹿馬鹿しくて、すごくユーモラスだからね。

  • サマーズ:あれはいいよな。見てると、わくわくする。

  • フリップ:音楽が素晴らしいんだ。

  • サマーズ:音楽ね。トレンディだよな。

  • フリップ:もう一つのほうは、新しいスタンダードを作ったんだ。

  • サマーズ:そうそう。新しいスタンダードね (笑)。

クリムゾンでリーダーとして演奏するのに比べて、もっと気楽で自由にやれたんですか。

  • フリップ:クリムゾンじゃうまく演奏できたためしがない。

  • サマーズ:え、今のクリムゾンで?

  • フリップ:いや、いつだってそうだよ。

なぜですか。

  • フリップ:クリムゾンをバンドにする、それがずっとやろうとしてきたことなんだ。ただの4人の寄せ集めじゃない。それ自身がアイデンティティを持つようなね。1981年のクリムゾンが、その理想に最も近づいてたと思う。合点のいかないところも無くはないけど、可能性があった。だが、それから後は、そういうのにも不満が見えてきて、いわば、さらに高い自己表現を目指すようになった。そうすると、バンドではなくなって、個人が表に出てくるようになるんだ。

  • サマーズ:それは、どんなバンドでもそうだよ。何かを成し遂げたバンドなら必ずね。よくあることだ。それを受け入れようとせずに、悪く言ってるようだな。まぁ、続けてくんだろうけど、同時に、何となく閉じ込められたような気分になって、何か違うことで知られるようになりたいとか、何か違うことをやりたいとか思うようになるんだ。

ってことは、創造活動において多少の摩擦は役に立つけれども、ある一線を越えると、どんなに頑張っても成果が得られなくなる (diminishing returns。経済学の用語で収穫逓減) ってことでしょうか。

  • サマーズ:違うものが得られるようになるんだよ。

  • フリップ:個人主義ってことだよね。個人主義が出てくると、何もうまくいかなくなる。

  • サマーズ:だけど、最高のバンドって、どれも個人主義のかたまりじゃないか。

ザ・ポリスは寿命の短いバンドでしたけど、3人ともすごく際立った個性を持ってましたよね。色んな押したり引いたりがあったんじゃないかと思いますが。

  • サマーズ:まさに。

ザ・ポリスの曲は、あなた自身のアレンジの貢献も、本当はかなりあるんじゃないですか。つまり、「Every Breath You Take」とか、スティングの曲って思われてるわけですけど、最初は必ずしもああじゃなかったんじゃないですか、と。

  • サマーズ:そうだね。6年以上やってたけど、最終的な仕上がりが、最初のデモとはずいぶん違うなんてのは、しょっちゅうだ。何だってそうだよ。編集したり組み立てたりってのは、元を作るのと同じくらいクリエイティブなんだ。元の素材は必要だけど、それを全く違うものに変えてしまうこともある。

「Every Breath You Take」の他にも、そういう曲はありますか。

  • サマーズ:例えば「The World Is Running Down」なんかもそうだ。スティングの歌詞は素晴らしいと思ったけどね。最初の形跡は何も残ってない。元はディスコ調で、コードも何もかも全く違ってたんだ。この曲だけは、スタジオん中でもかなり摩擦があった。自慢じゃないが、あのコードと特徴的なギターを入れなかったら、ああいう曲にはならなかっただろうな。

もっと自慢してもいいですよ。

  • サマーズ:じゃ、そうしよう。あのサウンドとコードを、スチュワートのドラムスに合わせた瞬間、これこそが鍵だと思ったね (指をパチンと鳴らす)。そうしたら、レコーディングは5分間、ほとんど一瞬で終わった。鍵が必要だったんだ。

そういえば、「The Secret Policeman's Other Ball」(1981年のチャリティ・コンサート) でスティングが「Roxanne」をボサノバ調で歌いましたけど、元はあんなだったってことですか。

  • サマーズ:そうだよ。ずいぶん初期の頃だな。たしか、ゲイがやってる美容室の地下で真冬にリハーサルしてて、やたら寒くてじめじめしててカビ臭かったのを憶えてる。ちなみに、そのゲイがスチュワートに惚れてたのも憶えてる。それはさておき、そこで「Roxanne」をやってたんだけど、スティングは一節しか作ってきてなくて、我々は演奏を繰り返してた。スティングは必ず否定するけど、あのベースラインはスチュワートがスティングに教えたんだ。あの頃、スチュワートはスティングよりもっとレゲエに入れ込んでたんでね。別にスティングをけなしてるんじゃないよ。彼自身、素晴らしいミュージシャンだ。

いえいえいえ、けなすとか、そういうのではなくて、バンドの中で咀嚼したりしますかってことで。

  • サマーズ:バンドでやるってのは、そういうことだと思う。何かしら優れたバンドには、そういうのが山ほどある。ベストなものってのは、才能はなきゃいけないけど、個性のぶつかり合いから生まれてくるんだ。

  • フリップ:バンドが活動していくには、目的を共有してないといけない。そうでないと、ただ力学があるだけになってしまう。キング・クリムゾンの最初のドラマーだったマイク・ジャイルズがいつも言ってたよ。バンドをまとめるには、3つのものがある。メンバー間の付き合い、金、音楽の質、この内のどれか2つが必要だってね。

運が良かれ悪しかれ、ですね。

  • フリップ:そうなんだ。目的を共有してるバンドは、どんな困難も乗り越えられる。もしも目的にずれがあると、どんな小さな問題も手に負えなくなってしまう。

  • サマーズ:まさにそれが真実だ。それ以上の言いかたはできないな。

  • フリップ:例えばだ。白ワインが冷えてないと、プラスチックのコップじゃ飲めないだろ (んー、意味不明。どういう例えなんだろ)。それが重大な問題になってしまうんだ。例えば、バンドの中で君の目的は、バンドとしての心を持ちたい、だったとする。だけど、別のメンバーの興味は、車が欲しい、かも知れない。そうすると、いつかは問題が起きる。共通の目的を持ってないからだ。

2人でデュオをやってても、そういう創造的なテンションがあったりしますか。つまり、2人は全く違うスタイルで、なのに、明らかに 1 + 1 = 2 よりも大きなものを作り出してますよね。それぞれのバンドでやってるよりも、易しかったか、難しかったか、それとも、ただ違ってたか、どうでしょう。

  • フリップ:まぁ、私は2週間半でいなくなっちゃったからねぇ (笑)。

アルバムはもう1枚あるでしょう。

  • フリップ:そっちの時は、ずっといたよ (笑)。

  • サマーズ:面倒な雑用はやらなくてもよかったな。いや、雑用ってより、ツアーをやらなきゃみたいなトラウマはなかった。2人とも、そういうのから逃れたくて、一緒にやったってことかも知れないけど (ここで、自己矛盾してるよな、みたいなことをブツブツつぶやいたらしい)。

自己矛盾してますか。

  • サマーズ:自己矛盾してる。2人ともさっき言ったみたいな状況から離れて、一緒に幸せになりたくて、3つめの選択肢、ん、2つめか?、を選んだわけだ。

無責任に適当なことやって、みんなが汗水流して稼いだ金を巻き上げようとした?

  • サマーズ:そうだな。気楽な毎日だったよ。ロバートと私は毎朝、顔を合わせて、コーヒーを飲んで、昨日やったことを喋り合って、新しいアレンジをちょっとスケッチして、そして...

  • フリップ:一つ言っとかなきゃいけないのは、朝に喋り合う時、私は向かいの自家製ケーキの店まで行って、グリーンケーキ (?) を買ってきてたってことだ。

  • サマーズ:私の分もね。

  • フリップ:店のオーナーが替わったんだけど、知ってた?

  • サマーズ:なんてこった。

  • フリップ:もうグリーンケーキは作ってないんだ。

  • サマーズ:それじゃ、もうアルバムは作れないな。

そのようですね。

  • サマーズ:話を続けると、我々はその後、サラダバーに行ってヘルシーな昼食を取る。そして、古風な本屋に行って、2人ともよく本を買って小一時間ばかり考え込む。それで戻ってきて、レコーディングを続けるんだ。シンプルだろ。

芸術的ですね。

  • サマーズ:それを毎日やってたんだ。

ツアー続きの状況を変えたくてプロジェクトを始めたってことですが、2人でライブをやったりするつもりはありますか。

  • サマーズ:そのことは話し合ってきたよ。私は、ぜひやりたいね。自分たちが経験してきたことを今のこれにつぎ込むのはすごく面白いだろうし、さっき言ったトラウマから逃れるためにもね。ただ、ロバートも私も他にやることが沢山あるんで、時間を見つけないと。

  • フリップ:同じ方向で合意してるかどうか、判らないけど。

  • サマーズ:してないかもな。

  • フリップ:マネージャーの考えは、また全く違うだろうし。

  • サマーズ:3つの選択肢がある。2人でギター2本だけでやるか、もう1人、テープを回して背景をつけてくれる人を足すか、バンドを作るか。

  • フリップ:ギター2本だけ、に大きな1票。

  • サマーズ:それが一番楽しそうだよな。アルバム通りの音が出せるかどうかは別として。

  • フリップ:それはどうでもいいよ。

  • サマーズ:どうでもいいよな。そうしようとすら思わないかも知れないし。

化学反応 (2人の間からその場で何か新しいものが出来てくること) の問題ってことですか。

  • フリップ、サマーズ:その通り。

2人とも他にやることが沢山あるって話でしたけど。

  • フリップ:私はないよ。もう引退して、後は成り行きに任せるつもりなんだ。

もうクリムゾンはないってことですか。

  • フリップ:ライブ・アルバム用のテープがあって、来年の2月にミックスする予定だけど (「Absent Lovers: Live in Montreal」のことか)。

バンドとしては、すぐに何かやる予定はないってことですか。

  • フリップ:ないな。

アンディはどうですか。何か映画のプロジェクトに関わってませんでしたっけ。

  • サマーズ:そうだね。実際、またそのために、明日か土曜からロサンゼルスに飛ぶ。それよりも、映画の脚本を1つ書くつもりでいて、自分にとっては、それが次のプロジェクトだ。あと、1月か2月に音楽を付けて欲しいって映画が3本あって、どれを引き受けるか選ばないといけない。実は、ロバートとこうやってる間にも、面白い話が持ち上がってるんだ。去年の夏に台本を1つ書いたら、彼らが映画化に乗り気になってきて、この2枚のアルバムから音楽を付けようって言ってきてくれてる。

  • ロバート:ほんと?

  • サマーズ:すごく良いものになりそうなんで、やる気満々だ。

  • ロバート:すごいな。

  • サマーズ:今は毎日、それの相談だ。監督が「I Advance Masked」を気に入ってくれてててね。彼らもすごく熱心なんだ。そんなんで、今は映画の活動が中心かな。ザ・ポリスのライブ・アルバムも、12月すぎに出すよ (実際には1995年に出た「Live!」のことか)。

  • フリップ:(ドーセット訛りで) 映画スターになるんだ。

  • サマーズ:それは判らないな。世間が決めてくれることだ。自分じゃそう思ってても、お袋はそう思ってなかったりするし。

  • フリップ:(ドーセット訛りで) 君は最高だよ。ナンバーワン。ナンバーワン!

ジャズ関係のアルバムも考えてるって言ってませんでしたっけ。

  • サマーズ:そう、ジャック・ディジョネットとね。何度も話し合ったんだが、私のほうがまだそれが出来るところまで行ってないってことで、彼がちょっとがっかりしてきたみたいでね。だけど、彼とはぜひやってみたい。一緒にやれそうな、すごく良い曲も持ってるし。

キャメロン・クロウが、「Fast Times at Ridgemont High」を書いた人ですけど、今度出るサウンドトラックのテープをこないだ私に送ってきてくれて、そうしたら、あなたが担当した曲に星印が付いてたんですよ。

  • サマーズ:そうそう。ロバートと私で2枚のアルバムを録音したのと同じスタジオで作ったんだ。「Human Shout」って曲で、その映画に入ってる。「The Wild Life」って映画で、そのうち上映されるんじゃないかな。

そろそろインタビュー終了ですが、放送直前にやった2人のデュエットを再現して頂けますか。

  • フリップ、サマーズ:(斉唱で) Oh, for a muse of fire that would ascend the brightest heaven of invention. A kingdom for a stage and princes to act and monarchs to behold the swelling scene.



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