クリス・カトラー、ヘンリー・カウや即興を語る (8/11)
カトラーの公式サイトに転載されているインタビューで、元は「Traverses」誌の1999年の記事だそうだ。
→ Traverses | History, Cow, Texts, Improvisation - Interview with Chris Cutler
現代美術と同じように、音楽も「理屈」に毒されていると思っていますか。
- いや。それも金の問題だ。現代美術は大金になる。音楽はそうじゃない。ミニマリストのフィリップ・グラスなんかはやっていけてるかも知れないが、ごく少数だ。ちょっと見、変に思える。だが、絵画はずっとそこにあって、いつでも見に行ける。音楽はそうじゃない。演奏されたその瞬間にしか存在しない。だから音楽は貴重で高価なんだって思うかも知れない。違う。絵画は展覧会で大勢が見られる。音楽はコンサートで少数しか聴けない。だから、展覧会は巨大なビジネスになるが、音楽はそうじゃない。絵画と違って、売ったり買ったり所有したりっていう実体がないんだ。
即興音楽は特にそうだってことでしょうか。
- まさに。即興音楽は、音楽を実体として固定しようというのに逆行するものだ。音楽をCDに固定してしまうと、聴き手のほうは必ず生演奏とCDを比べて、どっちが良いとか言い出す。CDは生演奏としての音楽を殺してしまうんだ。即興音楽なら、そういう問題は避けられる。
即興を収録したCDというのは、どう考えますか。
-
一種のパラドックスだね。私自身、そういうCDを5〜6枚作ってるが、どれもコンサートを収録したものであって、スタジオ録音じゃない。スタジオで即興をするってのは、どうも理解できないんだ。誰も聴いてないところで、ただマイクに向かって、なぜそんなことをする? 皆に向かって即興をするなら、意味がある。
-
スタジオで即興をするのは、それの上にさらに曲を作り上げていくから、楽しいんだ。つまり、スタジオってものを、何かを記録する手段じゃなくて、何かを制作する手段として考えてる。だから、即興をリリースするとしたら、それは必ずコンサートのものなんだ。しかも、それは記録じゃない。レコード制作なんだ。「ライブの記録として良いかどうか」って考えちゃいけない。「スピーカーから流れてくる音楽として良いかどうか」ってことだ。ステージでは素晴らしく聴こえても録音ではつまらなく聴こえる即興もあれば、逆のパターンの即興もある。
CDをコンサートの記録としてしか考えない人が多いってことですか。
-
そうだね。だが、それを否定するつもりはない。私は、自分がやっていることを説明しただけだ。コンサートを記録するのは、それは別の活動ってことだよ。だが、正直なところ、コンサートを音だけ記録しても、何の意味があるんだか。だって、コンサートは五感全てで体験するイベントなわけだから。
-
それは絵画を本に収録するのも同じだ。もう元の絵画とは似ても似つかない。大きさも違うし、色も違うし、二次元だし (特に油絵は絵の具の盛上りなんかも大切って意味だろう)、ギャラリーとかで鑑賞してるわけでもないし。
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