トニー・レヴィン+ギャヴィン・ハリスン、2015年のインタビュー (まとめ)

05 May 2017  |  Tags: Tony Levin, Gavin Harrison, King Crimson

2016/7/21 から紹介した「トニー・レヴィン、新生キング・クリムゾンを語る」と、2015/12/15 から紹介した「ギャヴィン・ハリスン、トリプル・ドラムスを語る」の全体を、正しい順序で一つにまとめた。カナダ「Montreal Gazette」紙の2015年9月の記事。

→ Montreal Gazette | King Crimson's Tony Levin and Gavin Harrison: the Complete Conversation


トニー・レヴィン

キング・クリムゾンで、今の心境はどうですか。

  • そうだな。8月に山ほどリハーサルして、9月にはヨーロッパで素晴らしいツアーをした。新しい公演は、とっても良いよ。去年とは曲目が少し違う。新しい曲もあるし、以前の曲も新しく増やした。ただ、モントリオールでどれをやるかは言えない。まだ決めてないからね。ツアーを始めるぎりぎりまで決めないんだ。

  • バンドは盛り上がってるね。すごく上手くいってる。ドラマー3人ってのは、やっぱり驚きだ。3人で頑張って、ぐちゃぐちゃになったり曲をダメにしたりすることなしに、色んな組合せを見つけ出してる。ロバート・フリップの目論見の通り、曲の深みが全然違う。

全員でのリハーサルで、最初からそういうふうに上手くいきましたか。

  • いったよ。だが、それはリハーサルが私が参加する前から実は始まってたからだ。3人のドラマーでリハーサルを重ねてきてた。キング・クリムゾンの念入りさの現れだろうね。彼らの内の2人はアメリカ人で、イギリスに飛んできて1週間のリハーサル、また飛んできては2週間、それを自腹でやってきてた。だから、バンド全員が初めて集まった時に、もうすでに出来上がってたわけだ。

  • 彼らは、演奏することになりそうな曲のテープに合わせて練習してた。曲ごとじゃなくて曲のパートごとに、色んな組合せでどう演奏するか、練習してたんだ。組合せは沢山あったが、どれも破綻なくクリエイティブだった。ドラマーが3人もいたらこうするだろうって誰もが思うこと、つまり、3人で同じリズムを叩くことも、全くなかった。

  • ドラムスが前列にいるんで、観客はまず横一列のドラムスを見る。サーカスで調教されたライオンを見てるみたいな気がするんじゃないかな (笑) (3頭のライオンと、フリップが調教師か?(笑))。3人のドラマーがライブの中心で、後列に立ってる4人はおまけだ。3人が演奏でコミュニケートしたり色々なフィルを次々に繰り出すのを見てるのは、本当に楽しい。時には、3人が左から右に順々にトムのフィルをきめてったり、時には、1人がバスドラムとエレクトリックドラムで別の1人がシンバル、驚異的だよ。

  • そのやり方が大成功してるだけじゃなくて、知的で音楽的なアプローチで、ベーシストの居場所を残しといてくれてるのが嬉しいね。すごくシンプルに徹しないといけないかと思ってたんだよ。ドラマー3人って話を聞いた時、「うーん、普通の1/2か1/3くらいしかベースが弾けないか」って思ったんだ。だが、実際には逆だった。ドラムスが低音部を分厚くしてくれてるんで、自分は低音部をちょっと少なくして、中音部でジャリジャリした音を出すようにした。たまたまだけど、初期のキング・クリムゾンのベーシスト (グレッグ・レイクのことか) と同じような音になった。

逆に、ドラマー3人に張り合うために無理やり頑張らないと、って考えたのかと思ってましたが。

  • とんでもない。実際のところは、リハーサルを延々とやってる内に、ベストな音に自然に落ち着いてきたんだ。こうしようってプランがあったわけじゃない。あったとしても、捨てるしかない。それなりに経験は積んできてても、ドラマー3人とやった経験はないんだから (笑)。なので、どうすればいいか、まるで判らなかった。

  • リハーサルの時間が十分にあったのは有難かったね。あれこれ色んなことを試せた。色んなベースギター、色んな弦、色んなアンプ、しまいには、クリムゾンで1980年代に弾いたっきりだったビンテージもののベースギターまで発掘してきた (笑)。1990年代にやってた曲には合わなかったんで、放置してたんだ。今はほとんどそのベースギターでやってる。

  • そんなふうで、クリエイティブな作業だった。脳じゃなくて耳で作って行く。楽しかったよ。うまく行くと、いつも楽しいよね。さんざん頑張ってもうまくいかないと、ちっとも楽しくない。

「楽しい (fun)」ってのは良い表現ですね。キング・クリムゾンのファンが「楽しい」バンドと思ってるかどうか、判りませんが。

  • そうだね。「楽しい」って言葉とキング・クリムゾンの名前が並ぶことはないに等しい。だが、今のバンドにとっても、たぶんファンにとっても、「楽しい努力」って言っていいんじゃないかな。もちろん挑戦的でもあるし、真面目でもある。自分たちは、クラシック・コンサートみたいに、スーツで正装してるし。だが、音楽的には、楽しいんだ。それはどの観客にも伝わると思う。

  • 我らが素晴らしき総帥、ロバート・フリップのことも話そうか。彼のビジョンがバンドを決定づけてるんだ。以前は恐ろしく厳格で勤勉で、実際、大変だった。今はただの気のいいおじさんだよ。一緒にいて楽しいね。

今までなかったことですか。

  • 彼にとっても誰にとっても、私にとっても、毎日は常に新しい。だが、ツアー中ずっとロバートがあんな上機嫌なのは、初めてだと思う。理由は判らない。聞いたほうがいいかな (笑)。ラインナップのおかげかも知れないし、時代のおかげかも知れないし、音楽のトレンドのおかげかも知れないし。

時代と言えば、何十年もやってなかった昔の曲をやるのは、かなり驚いたんですけど。

  • そうそう、そうなんだ。何で知った? セットリスト?

去年のアメリカ・ツアーのです。

  • そうか。今年は新しい曲も古い曲も増やした。レパートリーはどんどん多くなってて、その中からベストなのを選ぶ。2晩続けてなら、それぞれ少しずつ違えるし。

40年も前の曲は、「21st Century Schizoid Man」と「Red」と何曲かの他は、もう長い間やってませんでしたよね。なぜ今またやることにしたんですか。

  • バンドの歴史はよく判ってないけど、今やってる中には、これまでライブでやったことがない曲や、1ツアーでしかやったことがない曲もあるって聞いてる。全てロバートが決めた。我々メンバーはひたすらリハーサルを重ねてきただけだ。彼が曲を持ってくるんで、我々はそれを見て、例えば、来週月曜にケベックでリハーサルするから、それまでに頑張って憶えてくる。そして、ベストな演奏、ベストな音に持っていく。つまり、大量の曲を練習して、ベストなのを選んで、残りは、捨てるって言い方はよくないな、脇にどけとくんだ。

  • ロバートは古い曲を持ってきた最初から、これはたまたまずいぶん昔に書いただけで、新曲だと思ってくれ、って言ってた。彼が言ったのはそれだけで、私は、自分たちはカバーバンドじゃない、昔の曲をそのまま再現するバンドじゃない、そう解釈した。実際、オリジナルは聴いたけど、ほとんど参考にしてない。オリジナルはただの出発点で、我々自身で自由に曲を組み上げていった。

  • 聴く人によっては「なんだか昔のあの曲によく似てるね」って言うかも知れないし、昔からのマニアは「なんだよ。こことここを変えてるじゃないか」って言うかも知れない。曲の全体を大きく変えることはしなかったが、今の我々自身の音楽に作り変えたんだ。選んだ曲はどれも、それ本来の姿を保ちながら、かつ新しく変える余地を持ってて、元の曲作りの素晴らしさに驚いた。曲の良さのあかしだよ。

  • ベーシストとしては、どの曲もベースラインの格調の高さに注目せずにはいられなかった。音の並び (原文は note) が、時にはサウンドも、格別なんだ。それを失くしたくないと思った。だが同時に、自分自身の音楽性も入れ込みたい気持ちを抑えられなかった。すごくいい挑戦だったよ。今までやったことがなかったし。過去の素晴らしいベーシスト、ジョン・ウェットンの曲が多かったけど、彼らの精神に忠実に、その格別な音を保ちながら、かつ自分自身の曲にするにはどうしたらいいか。ピックは使わないことにしたり (グレッグ・レイクはいつも、ウェットンは時々、ピックを使う)、スティックを持ってきて全く別のサウンドにしてしまうとか。どの曲も、どう弾くか決めつけずに、挑んでいったんだ。曲との格闘技だ。いや、敵対はしてないから、いい喩えじゃないな (笑)。そして、原曲の精神を保ったまま新しいことができれば、嬉しくなる。それが勝利だ。

  • ..... すまない。つい熱くなってしまったよ。バンドのこういう側面を話すことはあまりないもんでね。

いえいえ、すっかり聞き入ってしまいました。ですが、それだけ長くバンドにいても、それでもあなたが注目するような曲をロバートが持ってきたのは、驚きだったのではないですか。

  • ほとんどの曲は聞くのも初めてだった。だが、ロバートに驚かされることには慣れてるよ。メールしてきて今回の再結成に呼んでくれたのも驚いたし、メンバーにも驚いたし、サックスがいるのも驚いたし、ドラマー3人だってのも、ものすごく驚いたし (笑)。ロバートは人を驚かせるのが標準なんだ。

今回の再結成にエイドリアン・ブリューが入ってないのも驚いたでしょうか。嬉しくない質問かも知れませんが。

  • まさにそうなんだ。本当に心底驚いた。..... うまい言葉が見つからないな。今のバンドで幸せだし、自分の居場所だし、バンドとしてあるべき姿だし、けれども、エイドリアンがいないのは本当にすごく寂しい。エイドリアンと演奏するのが大好きだったんで、とてつもないショックだった。この言葉が合ってるな。そう、ショックだった。

ロバートは彼にただ、新しいラインナップにはそぐわない、ってだけ言ったそうですが。

  • うーん。ロバートが何て言ったのかは知らないけど、これは言える。クリムゾンについて、クリムゾンのありかたや全体像や何がよくて何がよくないかについて、ロバートが言うことは全てロバート自身の考えだ。私は彼をギタリストとしてもバンドのリーダーとしても心から尊敬しているが、それだけじゃなく、彼自身がキング・クリムゾンの本質なんだと思ってる。だから、彼がキング・クリムゾンについて言うことに疑問を感じることもない (笑)。それは彼が彼自身について言ってることなんだから。

  • 別の可能性だってあったかも知れない。私だったら、1990年代にスティック奏者を2人も入れるなんてありえないだろう。1980年代にこんな素晴らしいバンドに入るなんて考えもしないだろう。ダブルトリオなんて発想は全く出てこないだろう。ドラマー3人なんて思いもよらないだろう。ロバートは本当にずば抜けてる。彼が私とは違う考えかたをする人で、神に感謝してる (笑)。

エイドリアンとのクリムゾン・プロジェクト (Crimson ProjeKCt) (レヴィンのスティック・メンとブリューのトリオが合体したバンドで、やはりクリムゾンの過去の曲を演奏する) はどうなるんでしょうか。

  • 本家のキング・クリムゾンが復活したので、もうやらないと思う。ロバートが新しいラインナップで復活させるって決めた時、クリムゾン・プロジェクトは新しいツアーを始めてたが、もう場違いな気がしたんだ。クリムゾン・プロジェクトは気に入ってるが、そういうバンドが同時に2つあるのは良くない。クリムゾン・プロジェクトがこの先どうなるかは判らない。もっとも、キング・クリムゾンもこの先どうなるかは判らない。

それを、首を左右に振り壁を叩きながらでなく、微笑みながら言えるってのはいいことですね。長年バンドにいる内に、そういう心境になったんですか。

  • 長年バンドにいるのは確かだが、同時にずぅーっとミュージシャンもやってきてる。地球の温暖化が始まる前からね。音楽「産業」って言葉は好きじゃないが、音楽は産業化して、ミュージシャンもただの職業だ。例えば、来年の春にツアーをやるって言ったら、それはツアーをやる可能性が85〜89パーセントくらいあるって意味なんだ。51パーセントでもいい。色んな要因でツアーがキャンセルになるって状況に慣らされざるをえない。面倒だから、そう言わないだけなんだ。

  • なので、どんなバンドにいてどんな今後の話が出てきても、先は判らないって判ってる。チケットの売上げ、レコードの売上げ、メンバーの健康状態、メンバーの係わり合い、色んな要因がある。今のキング・クリムゾンはずいぶんシンプルだよ。メンバー誰もがバンドを最優先にしてる。だが、どのバンドもそうだとは限らない。他のバンドと掛け持ちしてるメンバーがいることだってある。以前の私自身がそうだった。キング・クリムゾンとピーター・ゲイブリエルのバンドを掛け持ちしてた。ピーターのツアー中にロバートから連絡があったら、「ピーター・ゲイブリエルのツアーが終わるまで無理です」って答えるしかない。今はピーターは時たま短いツアーをするだけなんで、キング・クリムゾンを最優先にできる。そして、クリムゾンのツアー中にピーターから連絡があったら、「無理です」って答えるんだ。

キング・クリムゾンの今後は判らないってことですね。アルバムを作る可能性はあったりしますか。

  • そんな話は出てないな。スタジオアルバムを作るだけの材料はないと思う。ファンの一人としては、いつか出ると嬉しいけどね (笑)。バンドはずっとやっていく可能性がある。実際、2016年の予定も入ってるし。ただ、それ以上は今は言えない。私自身、来年 (2016年) 1月の予定だって、そうならないかも知れないんだし (笑)。

新しい材料ってことでは、ダブルトリオの時と同じように、ステージでの即興が試行錯誤の舞台ってふうにはなりませんか。

  • そうだね。最初は両方から攻めるみたいな感じだった。ボーカルの曲でもどんどん即興を入れたり、一方で、しっかり作り込んだ曲をやったり。今はすごく良い新曲を幾つかライブでやってるんで、作曲のほうが勝ってるような気がする。もちろん即興もやるし、さらに新曲も増えてる。3人のドラムスだけの新曲ってのも、ツアーごとに2〜3曲ある。割り込む隙が用意してあるんで、そこに残りの4人が入ってって、新しい曲になったりするんだ。

ボーカル入りですか。

  • その通り。ライブで何をやるかは決まってないけど、今回 (モントリオールでは)「Radical Action」と「Meltdown」って2曲は必ずやると思う。「Radical Action」はインストゥルメンタル、「Meltdown」はボーカル入りだ。2曲つながってるんで1曲だと思うかも知れないが、今のバンドをよく表してる曲じゃないかな。昔のクリムゾンの雰囲気を残しつつ、新しいからだ。少なくとも私にとってはね。最後は聞き手が判断することだけど。

昔のクリムゾンの曲をやっていると、バンドの古くからの歴史に参加してる気分ですか。それとも、常に前進してる感じですか。

  • 後者だな。古くさいんじゃなくて、重い歴史だ。あらゆる面でね。ロバートはそれを感じてるんじゃないかな。クリムゾンを新しくする度に、そして今回も、重みを感じてると思う。私は違う。そういうのに免疫ができてるっていうか、長年かけて、そういう気持ちを避けるすべを身につけてきたっていうか。

  • ちゃんと理詰めで考えたことはないが、どう言えばいいかな、どのベースラインも自分のものみたいに感じてるんだ。元は別の人が作ったのを下地にしてて、それはすごく尊敬してるけど。つまり、私の歴史じゃないし、歴史はどうでもいい。ただライブで演奏して、誰かが「今夜はジョン・ウェットンの再来みたいだった」って言ってくれたら、もう最高のほめ言葉だよ (笑)。

曲を自分のものにするのでなければ、ただのトリビュート・バンドだってことでしょうかね。

  • そうそう、その通り。ただ、人それぞれだ。私は自分のアプローチがそれほど大したものだとは思ってない。だが、自分のアプローチなんだ。ベースラインが自分のだって思えないようじゃ、嬉しくない。だが、オリジナルほどよくないなって感じたら、自分にこだわるのはすぐにやめる。オリジナルの音楽性には本当に感服してるんだ。

何があなたをキング・クリムゾンに引き戻すんでしょうね。ロバートからの電話の他に。

  • (笑) そうだなぁ。..... 高度な音楽的体験だからだ。誘いには Yes って答える他はありえない。沢山の音楽をやってきてるし、色々な音楽をやってきてる。そういう中で一番大切なのは、音楽の質なんだ。だから、なぜ最高の音楽性を目指すんですかって質問なのであれば、音楽にはそれが不可欠だからだ。

  • 素晴らしい挑戦だからでもある。私はそういう音楽的な挑戦が大好きなんだ。分かりきったところに落ち着いてしまうのは、好きじゃない。クリムゾンは最高の挑戦の一つなんだよ。

  • それに、バンドのどのメンバーも音楽性が高くて尊敬してる。一人で離れ小島に孤立してるんじゃない。一緒にステージに立てて、色んなことが学べるし、色んな刺激を受けるし、本当に楽しい。


ギャヴィン・ハリスン

3人のドラマーがステージの前列に並ぶってアイデアを最初に聞いた時、どう思いましたか。

  • ずいぶん大胆だなって思ったよ。ドラマーが3人、しかも前列に並ぶバンドなんて、聞いたことがない。だけど、キング・クリムゾンってのは、常識をぶち壊すバンドなんだ (笑)。ロバート (フリップ) のアイデアなんだけど、すごくびっくりして、どうすりゃいいんだ?って考え込んでしまった。

で、どうしたんですか。

  • (笑) さんざん考えたね。パット・マステロットとは、以前にクリムゾンで一緒にやったことがあるんで、2人なら勝手が判ってる。だけど、3人ってのは、どうすりゃいい。それぞれ全く違うし、セッティングも違うし、色々すぎる。なので、パーカッションだって考えればいいのかな、って思った。誰かがハイハットを叩くなら、別の人が別の何かを叩く。時には、何もやらない人がいてもいい。つまり、オーケストラみたいなものだ。例えば、チューバの奏者は全ての曲で演奏するわけじゃない。ただ座ってるだけの時もある。同じことなんだ。

  • 時にはリズムを3つに分けて分担する、時には3人で1つの巨大なリズム・マシーンになる、時には1人だけ8拍めをちょっと遅れて叩く、時にはパットがエレクトリック・ドラムでメタリックな音を出す、時にはビルがキーボードを弾く、時にはパットが最初のパート、ビルが中間のパート、私が最後のパートを受け持つ。そうやって、自分たちのパーカッション倉庫から、適したサウンドを取り出していくんだ。

3人のセッティングの違いを教えて下さい。

  • ビルのキットは普通サイズで、私のほうが大きい。彼はパットや私ほどロックっぽくないんで、ソフトでシンプルなパッセージなんかはビル向きだ。例えばツーバスを狂ったように連打するんだったら、私だな。パットのキットは金属パーカッションだらけで、ジェイミー・ミューアっぽいパートは彼がやる。

  • 分担をパートの観点からじゃなく、サウンドの観点から考えないといけないこともある。何を演奏するか、それに、よくあるんだけど、何を演奏しないか、3人で長い時間をかけて組み立てていく。3人もいると、すぐにカオスになるからね。わざとカオスにすることもけっこうあるけど。

トニー・レヴィンは、ドラマーが3人もいるんじゃ自分の入り込む余地がなくなるんじゃないか、って心配したそうですが。

  • ドラマーが一斉にバス・ドラムをダウンビートで叩いて、スネアをバックビートで叩いてたら、そりゃベーシストにとっちゃ嬉しくないだろうね。なので、リズムの中心となるバス・ドラムとスネアは重ならないようにしたんだ。本当にそれが必要な時の他はね。

トニーは、3人のドラムスが前列に並んでるのは、なんだかサーカスで調教されたライオンを見てるみたいだった、とも言ってましたよ。

  • いや、スペクタクルなんだけどな (笑)。バンドの中で最も動きが激しいのは、普通はドラマーだ。それが3人も前列に並んでるんだから、見ものだろうと思うよ。ボーカルを中心にバンドがまわりを囲む、っていう普通の並びよりもね。ジャッコは私の後ろで歌ってるから、ボーカルがフロントでリードだってみたいに、ことさら目立つことはない。たいていのバンドならボーカルがフロントだから、ボーカルが中心に立つのがいい。今回は、パーカッションがフロントにいるオーケストラみたいなものなんだ。

ボーカルが中心でないロックバンドというと、他にはトゥール (Tool) くらいしか思い浮かばないんですが。

  • そうだね。トゥールはボーカルが中心じゃない。私たちはおまけに、観客とコミュニケートしない。「よく来たな」とか「キミタチ、サイコダヨ」なんて言わない。ただ演奏するだけだ。

だからと言って、観客と気持ちが離れてるってことはないですよね。

  • いや、全然。観客が間近なんで、かえって、いつもより観客と一体になってる気分だ。普通は (ドラマーは) ステージの後ろで高い場所にいるんでね。

パットやビルだけでなく、それ以外のメンバーとも一体化できてる気分ですか。

  • 今回の私の場所はステージの左側で、中央に向いて座ってる。なので、バンドの全員が見渡せるんだ。普通なら (ドラマーの場所からは) 観客席の最前列あたりより後ろは真っ暗闇にしか見えないんで (笑)、他のメンバーの演奏が見られるほうが、よっぽど楽しい。それに、演奏せずに、ただキング・クリムゾンを眺めていられる時間も、けっこうあるからね。最高の観客席だよ。

トニー (レヴィン) によると、バンドの全員が集まる前に、ドラマーだけで集まったそうですが。

  • 去年も今年もそうした。これからも、新しくリハーサルが必要な曲は、そうすると思う。一晩に数パートずつ、ドラムスを慎重に組み立てていくんだ。3〜4分の曲でも、3〜4週間はかかる。ステージじゃ楽譜を見るわけにいかないんで、全て頭に入れないといけない。山ほどリハーサルが要る。だから、ドラマーだけで集まるんだ。実際、数年前から我々3人だけで集まって、スタジオで録音し始めてた。マルチトラックでハードディスクに録音して、聴き返しながら、どう改良するか考えていった。どの箇所で誰が頑張って誰が休むか、なんかもね。

カオスの中から形を作り出すのに時間がかかったりしませんでしたか。

  • パットとは2008年頃にダブル・ドラムスで組んでたから、普通のドラムスの一部分だけ演奏するみたいなパターンはよく判ってた。ハイハットとスネアだけでバスドラムは叩かないとか、スネアとバスドラムだけでハイハットは叩かないとか。

  • ビル (リーフリン) がダブルやトリプルのドラムスの経験があるか、知らなかったけど、すごく音楽的なものを持ってるんで、うまく行くだろうって判った。最初の数日、我々だけでさんざん話し合った。何が好きで、どんな曲がやりたくて、どんな曲はやりたくないか、どんな音が出したくて、どんな音は出したくないか。そうやって、トリプル・ドラムスにアレンジしていくアプローチを共有するようにしたんだ。

これはやらないようにしよう、みたいなのはありましたか。

  • いや、制約は何もない。自分で自分に課す制約の他はね。ダブル・バスは使うなとか、チャイナ・シンバルは使うな、みたいなことは誰も言わない。効果的かどうかだけだ。ドラマーが3人もいると、下手すれば、すぐに過剰な音になってしまう。だから、言うなれば、6本の腕と6本の足と1つの頭を持った1人のドラマーになるように心がけたんだ。

  • もちろん、何から何まで前もって決めてあるんじゃなくて、ステージでは3人とも即興できる時間がある。フィルのところで、まず私の番、次にビル、そしてパット、最後に、考えてた通りに3人で、なんてのもあるし、私の演奏に他の2人が応えるとか、3人でバトルを繰り広げるとか、そんなふうに、2小節くらいやりたいことをやれる時間があちこちあるし、ある曲のある一部は自分に任されてるなんてのもある。

昔の曲をやるって言われて驚いたりしましたか。

  • いや、全然。初期の曲をやることになるだろうって思ってたし、実際、最初の1969〜1974年の曲を山ほど掘り起こした。だが、ロバートにいつも言われてたよ。「当時のドラムスを真似しちゃいけない。初めて聞いた曲みたいに演奏してくれ。40年以上も前の演奏なんか気にするな」。それは簡単だった。私自身、キング・クリムゾンのマニアじゃないし、初期のアルバムとか持ってないし、プログレを聴いて育ったわけでもないんで。

  • 2008年にロバートから、こんな曲をやって欲しいって言われた時、こう答えたんだよ。「正直、アルバムは1枚しか持ってないんだ」。たぶん「Beat」だったかな。「それに、もう30年以上も聴いてないし」。そうしたら、「素晴らしい。気に入った。新しい方向からやれるじゃないか。ドラムスをコピーするんじゃなくて、新曲として演奏して欲しいんだ。バンドの誰かが『新曲を持ってきたぞ』って時みたいにね」。なので、そうしてる。

キング・クリムゾンのマニアじゃないってのが面白いですね。トニーも、あれだけ長くバンドにいながら、自分はエキスパートじゃないなんて言うんですよ。

  • そうだろうね。例えば、曲名を言われても、どのアルバムに入ってるかなんて知らないし、聴いたことがないのもある。プログレを聴くようになったのは、ずいぶん後になってからなんだ。

昔の曲が復活してきたのにショックを受けたファンもいるんですが。

  • 今のラインナップに呼んでくれた時、最初の電話からロバートはこう言ってた。「3人のドラマーでやる。ステージの前列に並んでもらって、自分たちは後列の高いところに立つ。そして、古い曲を沢山、新しい曲を幾つかやる」。はっきり言って、どんなふうになるのか、予想もつかなかった。新しいアルバムを作ってないから「古いの」って言ってるのかな、くらいに思ってた。2008年のバンドじゃ、昔の曲は「Larks II」や「Red」、せいぜい2〜3曲しかやらなかったしね。エイドリアンがいたから、1980年代や90年代の曲を多くやってた。

キング・クリムゾンにしばらく在籍していて、ファンになったりしなかったんですか。

  • このバンドで気に入ってるのは、常に新しくあろうとする心意気だ。ロバートがそうだからだけど、そのためには何でもありなんだ。例えば夜中に、これ以上はないってくらいクレージーなアイデアを思いついて、目が覚めたとしても、クリムゾンなら試すことができる。当たり前だったり詰まらないアイデアはお呼びじゃない。変てこなアイデアほど歓迎なんだ。思いつく限りあらゆることが何でも、どこかで使ってもらえる、そんなバンドは他にないと思う。

2008年のバンドが中途半端に終わってしまって、驚きませんでしたか。

  • そうなんだ。6週間くらいリハーサルして、コンサートを11回やっただけだ。翌年もやるつもりだったと思うんだけど、だめになってしまった。

いずれ活動を再開するだろうって確信はありましたか。

  • あった。当時はポーキュパイン・ツリーの活動の合間に参加してて、2009年も最初の8か9ヶ月くらい空いてたんで、そこでなら参加できるだろうって思ってたんだ。そういう意味でね。だが、終わってしまったので、(活動の重複が) 何も問題にならなくなった。

「Scarcity of Miracles」が出た時、これがキング・クリムゾンにつながるだろうと思いましたか。

  • いや、全然。ただの小さなプロジェクトってしか思わなかった。たしか2013年の9月にロバートが言ってくるまで、クリムゾンの話は全く出なかった。電話を受けて、驚いたよ。彼は訴訟にかかり切りで、引退したも同然って思ってたからね。ギタリストとしては何も活動してなかったから、クリムゾンの話もない。だが、その問題が解決して、「だったら、キング・クリムゾンを新しいアイデアで新しい出発点として、再結成しよう」、そう考えたんじゃないかな。

たしかに、以前のキング・クリムゾンとは全く違いますね。そうでなければ、再結成の意味がなかったと思います。

  • 昔の曲をやるけれども、決してトリビュート・バンドじゃない。昔の演奏を忠実に再現するなんてことはしない。古い曲の新しいテイクをやるんだ。

ポーキュパイン・ツリーのほうはどうなるのか、聞いていいですか。スティーヴン・ ウィルソン (ポーキュパイン・ツリーのリーダー) に何ヶ月か前にインタビューしたら、バンドは終わるかもみたいな気配だったんですが。

  • あはは。まだ解散はしてないよ。今はそれしか言えない。いつかは戻ってくると思う。いつになるかは判らないけど。今は何の計画もないんだ。スティーヴンは自分のソロ活動で忙しいし、私はクリムゾンで忙しいし、他のメンバーもそれぞれ忙しい。だから、近い内に一緒に何かするってのは無理だろうね。



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