ロバート・フリップ、係争の詳細を語る

16 September 2012  |  Tags: Robert Fripp

ちょっと割込み。ロバート・フリップの日記ってのがあって、何月何日何時何分って単位で、実にマメに更新されてるんだけれども、2012/9/10 に要点を紹介した「Financial Times」の記事のことで読者から投稿があったのに対して、詳しい返答が書かれている。

→ Robert Fripp's Diary - Thursday, 9th August 2012, 10:06


(投稿) 「Financial Times」のフリップ・インタビューについて:興味深く読みましたが、ロバートの苦情について、十分に理解できていないかも知れません。今の社会が「市場化」していて、斬新で刺激的な音楽の創造を妨げている、そう信じているようですが、間違って嘆いているように思うのです。もしも本当にそうなのであれば、記者も書いているように、「世界最大のレコード会社を相手に、なぜ金のことで口論」しているのでしょうか。なぜ、そのエネルギーを、音楽を作るとか、もっと生産的な方向に向けないのでしょうか。アーティストがレコード会社から不当な扱いを時々受けることがあるのは、私もよく判っています。ですが、ロバートはすでに自分自身のレーベルを持っていて、利益をあげています。大手レコード会社の助けなど要らないでしょう。

  • こんなのでどうかな。理由は、彼らが何も渡そうとしないからだ。例1:サマーズ&フリップの2枚のアルバム「I Advance Masked」、「Bewitched」の印税を、19年間ずっと支払ってくれていない。代わりにユニバーサル社 (UMG) は、ロンドンで最高の弁護士を雇って、なぜ支払わなくてもいいのか、長文の手紙を送ってきた。例2:ユニバーサル社がiTunesでキング・クリムゾンの楽曲を、アメリカ国内で2006年からダウンロードさせていることについて、無許可で違法なわけだが、会計情報を開示するよう、2009年に約束したにもかかわらず、これまで全く開示してくれていない。我々の詳細な問合せは、同じロンドンの弁護士、ブライアン・ハワード氏が、電子メールでの訴状には対応する用意がないとのことで、妨害している。それはこういう意味だろうと理解している。つまり、この問題を解決するのに必要な情報を、法廷外で提供する用意はない。この問題を高等法院に提訴するには、最低でも350,000ポンド (約44,000,000円) はかかる。自分たちはすごくすごく巨大な企業で、EMIを買収してさらに巨大になろうとしている。金は山ほどあるんで、ちっぽけなお前らなんかすぐに叩き潰せる。

  • これは金の問題ではほとんどない。1991年以降 (例えば「Frame by Frame」、「The Great Deceiver」) のライナーノーツや、1998年以降のこの日記を少しでも読んでもらえれば、それでも私の苦情を十分には理解できないとしても、不当な扱いを (時々だと?) 受けることがあるのはよく判っているとか言って、こういう、善意からとはいえ、無知な投稿をしてくるよりはマシになるだろう。

  • 私は創造的で生産的な毎日を過ごしている。そのほとんどは人の目に触れないところでだ。例えば、Guitar Craft、The Guitar Circles、The Orchestra of Crafty Guitaristsといった仕事を続けている。だが、精神集中の継続を必要レベルに保つこと、生産的な生活をプロの活動として、つまり商業上の利益や需要が介在するものとして、続けることは、世界最強の音楽企業とずっと係争を続けながらでは不可能だと判ったのだ。「力を握っている者たち」(Power Possessors) は、そういう係争がアーティストにとって死を意味することを知っている。だから、彼らはやりたい放題だ。2007年11月、いつもの土曜の朝のように、あるビストロで「FT Weekend」を読んでいた。そして、ユニバーサル社のビジネス担当弁護士、「最も無能なスミス氏」(Mr. Most Useless of Smiths) が、サンクチュアリ・レーベル (キング・クリムゾンも契約していた) の買収について繰り返し否認しているのを知った (実際には買収している)。そこで、ユニバーサル社のビジネスの問題に集中して取り組むことを決意したのだ。恐ろしいよ。悲劇だ。少なくとも私の人生にとっては。

  • 「市場化した社会」(market society) については、このページ (英語) を読んで欲しい。2007年当時、世界的な金融機関が基本的には搾取ばかりしていて堕落している、顧客の利益よりも自分たち自身の利益を優先している、自分たち自身の利益を拡大するためになら嘘も辞さない、などと示唆したとしたら、たぶん普通のまともな人の多くは、粗野で誇張した発言だと思っただろう。音楽産業もそういう金融機関と同じ動機付けで動いていると見なしても、大した飛躍にはならない。2012年の今になっても、多分まともであろう投稿者のような人が、無邪気に跳ね回っているのだ。

  • ごろつきから引き下がるのは、品位をそこなう行いだ (18世紀のイギリスの政治家・哲学者エドマンド・バークの言葉「悪が勝つには、善人が黙りさえすればいい」(All that is necessary for the triumph of evil is that good men do nothing.) を引用している)。


2012/9/12 に書いたのをもう一度書くと、ユニバーサル社との版権係争ってのは、まとめると「ユニバーサル社側は、キング・クリムゾンがかつて契約していたレーベルを取得した。フリップ側は、キング・クリムゾンの楽曲を販売したり配信したりする権利はユニバーサル社にはない、と主張している」って話。フリップに詳しい人にとっては、「Financial Times」の記事は噂や断片情報の再確認みたいなものだけど、本人自らの「プレス発表」はやっぱり重みと露出度が違う。海外でもけっこう話題になってて、中にはこういう、フリップ曰く「判ってない無邪気な人」(innocent) もいるってことで、日記で取り上げたようだ。なお、投稿者とフリップの口調が違うのは、自分の訳のせいで、投稿者がへりくだってフリップが威張ってる訳ではない。



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